銭湯のミライとは? ~君はもう新しい「浴場業の振興指針」を読んだか~【前編】

「浴場業の振興指針」とは?
「浴場業の振興指針」とは、国(厚生労働省)が定めた法律に準ずる銭湯(公衆浴場)業界のガイドライン的なものです。各銭湯や各浴場組合(銭湯の業界団体)はその指針に書かれた内容を読んで、そこに示された内容や課題等に向け取り組む事が求められています。中身については、5年に1回改定され、厚生労働省の会議で銭湯経営者代表も参加し内容を決めています。それが今年2020年3月に改定されました。
銭湯と同様に、生活衛生関係営業の16業種(飲食店や理容、美容、旅館ホテル、映画館等)も13の指針があります。
特に、銭湯(一般公衆浴場)は他業種やスーパー銭湯・温泉施設に比べて、行政からの補助金や助成減免の額が大きく、公共性の強い施設なので、こうした指針のもつ意味合いもかなり重いと考えます。
でも、この「浴場業の振興指針」、銭湯経営者・働く方ですらちゃんと読んでる人そんなに多くない気がします・・・
この指針に対して、各県の浴場組合は「振興計画申請、実施報告書」の提出を求められているので
各県の浴場組合の理事クラスは当然読んでいるのだろうと思いますが。
この「浴場業の振興指針」は関連資料も含めて、勉強になる部分や参考になるデータ多いので(その為に書かれてるのだから当たり前か)、銭湯の経営者の方や働いてる方・関連団体の方はぜひ読まれると良いと思います。
きっと参考になるはずです。
「浴場業の振興指針」本文を見る前に
この指針を決める会議(第34・35回 厚生科学審議会生活衛生適正化分科会)で配られた資料の中に
国・厚生労働省がいまの銭湯業界の分析した資料があるので、事前情報としてそちらを見てみましょう。
なかなか興味深い指摘が多いです。
第34回厚生科学審議会生活衛生適正化分科会 令和元年12月10日資料 より引用
○浴場業の現況について
1.業界(組合員)の経営環境について
業界(組合員)の経営資源の強み ・日本の伝統文化である(入浴の起源は、奈良時代の光明皇后による立願施浴)。 ・地域に密着した施設である。 ・地域住民(特に高齢層)の健康増進のための施設である。 ・ボランティアで銭湯を盛り上げる活動をしている会がある。東京・愛知・京都・大阪・神奈川等。東京で募集している銭湯サポーターは5600名(令和元年10月時点)を超え、SNSで銭湯情報や魅力などを発信してくれる。 ・昨今、マスコミ等に取り上げられる機会が増え、好意的な記事が多い。 ・他業種と比較すると組合加入率が非常に高い。 ・公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律が制定されている。 ・他業種と比較すると行政の支援や協力をいただける。 ・災害時に地域貢献が可能であり、またAED設置を推進している。 ・高齢者のみまもり支援やこどもSOS支援に協力できる。 |
業界(組合員)の経営資源の弱み ・新規開業がほとんどない。 ・転廃業に歯止めがかからず組合員が減少している。 ・銭湯のない市町村が点在し、銭湯難民が増加している。 ・経営者の高齢化や後継者人材難もあり、世代交代が進まないケースがある。 ・施設の老朽化が進んでいるが、改善・修繕に多額の費用が掛かるため、転廃業につながるケースが見られる。 ・行政の支援が減少傾向にある。 |
業界(組合員)を取り巻く環境→(競合(大手等)、顧客、マクロ環境など)の良い状況 ・訪日外国人旅行者の増加に伴い、日本独自の入浴文化に魅力を感じ、外国人利用者も徐々に増えてきている。マスコミ等からの問い合わせも多数寄せられている。 ・若者の銭湯新規利用者がSNSなどにより徐々に増えてきている。 ・体の健康だけでなく、心の健康にも効果があると評価が広まっている。 |
業界(組合員)を取り巻く環境→(競合(大手等)、顧客、マクロ環境など)の悪い状況 ・自治体や第3セクター等が運営する温浴施設等との競合問題。 ・民間スポーツ施設等が「その他公衆浴場」から「一般公衆浴場」へ営業許可の変更を行い、近隣の銭湯と競合するケースが見られた。 ・利用者の減少による入浴料金収入の減少。 ・入浴料金収入が中心であり、付帯事業収入を得ることが困難である。 ・家族経営が多く、長時間労働である。 ・利用者は、常連客・固定客(高齢者層)が多い。 |
2.振興指針に定められた事業の取組状況等
組合で策定する振興計画の作成に当たっての指導、振興計画の取組状況等の把握 平成31年4月現在の各県組合(39組合)の組合員数分布は、下記である。 ・10軒未満8組合 ・30軒未満18組合 ・50軒未満3組合 ・100軒未満5組合 ・100軒以上5組合 組合員数が少ない組合にとっては、振興計画申請、実施報告書などの書類作成が困難であるという。なお、組合事務所があるのは21組合にとどまる。 |
組合への支援事業の取組状況 ・外国人受入環境の整備(おもてなしステッカー、マナーポスター、銭湯見学会他) ・健康増進入浴法の情報提供(研修会、入浴法冊子やコミック、PRポスター他) ・体験入浴の普及事業(子供向けのマナー紙芝居、銭湯見学会他) ・健康入浴推進員の養成・生命共済の斡旋 ・公衆浴場用の賠償責任保険の斡旋・受動喫煙の防止対策東京では100%禁煙化、大阪でも昨年4月1日より取組中。健康増進施設である銭湯は100%禁煙を目指す。 ・大規模災害時の住民支援熊本地震、大阪北部地震、西日本豪雨等では入浴支援を実施し地域貢献できた。大規模災害時にはこのような支援を各県でも実施できるよう「熊本地震の活動記録、災害時マニュアル」等を配布した。 |
特に成果の上がった事業(取組) ・外国人利用者については、受入環境の整備事業を実施した結果、次第に増加している。 ・児童の体験入浴については、実施浴場が増え、その後、家族での利用があったという声を聞く。家族での銭湯利用の引き金になる可能性を秘めている。 ・HSP入浴法、季節にあわせた健康増進入浴法、銭湯と幸福度の関わりPRなどが組合員にも好評であり、組合によってはHP等で積極的に公開発信している。 |
取組が難しい事業 ・施設及び設備の改善や、省エネ強化や環境保全の推進に関する事業これらの改善や推進には多額の費用を要する。このため、大規模修繕が必要な際に廃業してしまう組合員が多い。 ・事業の承継等に関する事業改善方策 改善方法 ・利用者を増やし、入浴料金収入の増加が重要である。経済力のある一部組合員は設備投資を行い、利用者を増やした者もいるが、大部分は、設備改善をしたくても、できない状況である。 ・利用者の増加につながる創意工夫した組合員の取組を紹介する、アイディア集を配布したり、業界新聞で紹介したりしてサービスの向上につなげていく。 ・地域住民の浴場利用の確保対策として、国や地方自治体のより強力な支援策が必要である。 |
第34回厚生科学審議会生活衛生適正化分科会 令和元年12月10日資料 より引用
なるほど、
さすが厚生労働省がまとめた資料だけあって、
現状・問題点等、的確に指摘してると思います。
良い点と悪い点をそれぞれ挙げているので、銭湯業界の全体像もつかみやすいです。
よくある銭湯関連の記事は、「銭湯は良い・素晴らしい」等の手放しに褒める記事や「銭湯は年に50軒閉店してる」等の全くデータに基づかない記事が多いので、こういう分析は非常に新鮮です。
ここからは自分の分析と持論です。
もちろん、以下の内容について異論等もある方はいるの思います。
長文ですが、一つの意見として読んでいただけると幸いです。
今後の銭湯業界は
・地域 (地元LOVE。地域を愛しまた地域からも愛される銭湯)
・行政 (地域の公的機関・企業団体との協力。役所、保健、福祉、消防、学校その他)
・同業者 (浴場組合の活性化とそれを超えた繋がり。温浴業界との交流)
の3本柱がより重要になってくると思います。
後述する東京の銭湯が他の県より強いのは、この3つの土台が強いからだと自分は考えています。
銭湯の現状の中で良い点として他に
・SNS、ネット、メール等の普及によって、県や支部を超えた銭湯同士の交流や情報収集が安易になった点。
「昔(自分が銭湯継いだ時)は、近隣の銭湯の人しか知らず本当に孤独だった。でも、SNSで全国に自分と同じ考えや問題意識を持って取り組んでいる銭湯の方がいるのが分かって、大いに参考になったし自分も頑張ろうと思うようになった!」
↑これは銭湯経営者の方から本当によく聞く言葉です。
あと、良い点として
・若手銭湯経営者や外部の人材が活躍しだした点。
若手というのは世間でいう20代だけではなく、銭湯業界でいう若手は30代・40代・50代も含みます。
風呂屋の2・3・4代目、他の職業も経験して銭湯を継いだ方、
10年後はこの辺の方達が銭湯業界を引っ張る立場・流れになるのは確実だと思います。
外部の人材については、良い面と悪い面が・・・
まだ数としては少ないですが、京都滋賀のゆとなみ社や東京神戸のニコニコ温泉株式会社等が、従来とは違うやり方や考え方で、銭湯業界に新しい良い風を吹き込んでいるのは確かです!!
その一方、一部に自分勝手なやり方で問題も起こす人も出て来たので、この点は上手な関わり方が必要かと。
あと、「銭湯やりたい・働きたいという人」はSNS等もよく見かけますが
銭湯業界にいま最も足りてないのは、影となって銭湯業界のサポートをする、実務能力や調整力が高く、
人や組織団体の繋がりを作る力がある『裏方』『事務方』の役割が出来る人ではないでしょうか。
上記のような方がいま銭湯界隈を見回してもほぼいません。このような人がいま本当に必要だと思うんです。
上記の厚生労働省の資料の中で
取り組んでる・成果出てると書いてあるが、やや過大評価では思う部分もあります。
特に、外国人利用者、インバンド(外国人旅行者)についての記述。
近年、全国の浴場組合が非常に力を入れてる部分であり、利用者がどんどん増えてる事になっていますが
神奈川県の去年の調査で、銭湯の外国人実際の利用率は全体のわずか「0.3%」という数字が出ています。
また、ある県浴場組合では、日本人向けの銭湯情報もあまりないのに、外国人向けパンフレットだけ作っていたり・・・
外国人利用者の問題はもちろん取り組むべき問題ですが、銭湯業界全体での重要課題かは疑問が残ります。
その銭湯や立地や客層によって大きく変わる部分でもあるし、各銭湯ごとの対応で良いのではとも思います。
銭湯業界の問題点して、ここ数年ハッキリと形になって現れている
・「地方の銭湯崩壊」
・「銭湯の地域格差(具体的いえば東京23区とその他道府県)」
近年、東北地方で多くの浴場組合が解散状態になりましたが、今後同様のことが他の地域でも起こるのは必至です。
東京都内の銭湯全体は、廃業のペースも一時期よりは落ち着き、銭湯の入浴客数もここ数年増加傾向にあり、
やや明るい兆しも見えてきました。ですが、他の道府県の銭湯は、そういう明るい兆しがほぼ見えません!
解散はまだでも、浴場組合としての活動・機能が現時点でほぼ止まっているという県もいくつも聞いています。
たぶんこのまま行くと20年30年後は、銭湯として生き残っているのは
人口もあり行政からの補助も非常に手厚い東京都内の銭湯の一定数、とその他の大都市部のみになりかねない!
対策としては、組合数が減っている組合への具体的な支援や、組合解散した県については越境しての組合加入を可能にする。全浴連内の組織・ルールの変更は必要だと思う。
・「銭湯」=「東京の銭湯」??
東京都公衆浴場組合(東京の銭湯の団体)と、全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全国の銭湯の団体)は、
役員や事務方も両方を兼ねてる人が多く、事務所も同じ、実質ほぼ同一の組織といえると思います。
その為、都内の銭湯の事やその意見が、まるで全国の銭湯がそうであるかのように話される事があります。
今回の厚生労働省の資料や会議でも、これは当てはまるの東京だけじゃ?と思う内容が銭湯全体の話のように取上げられてる箇所もありました。
メディアやインターネット等も同様です。
銭湯がメディアに取上げられる機会が増えたり、
各銭湯のSNSでの情報発信が注目されるようになって(それ自体は良いことですが)
発言力や発信力が高い「少数の銭湯」の意見や状況が、「銭湯全体の意見や総意」のように取上げられたり、
受ける側もそう取ってしまう事があるように感じます。
でも、冷静に考えてみると、9割以上の銭湯がSNSはやってないし、メディアに頻繁に取上げられる事もありません。
こうした状況で、「サイレント・マジョリティ(声なき多数派)」である多くの銭湯の意見や実態が逆に分かりづらくなり、銭湯の本当の問題や課題が見えづらくなっているのではないかという心配もあります。
そうした声を取上げる、多くの銭湯にプラスになる活動をするが、
浴場組合に求められる役割、また今回の振興指針の意味だと思います。
銭湯業界の現状分析だけで結構な文量になってしまったので、
「浴場業の振興指針」本文については、分けて後編にしたいとおもいます。
銭湯のミライとは? 君はもう新しい「浴場業の振興指針」を読んだか?【後編】 (後日更新予定)
参考・引用資料
「浴場業の振興指針」 令和2年3月公布
「厚生科学審議会生活衛生適正化分科会」 第34回(令和元年12月10日)第35回(令和2年1月8日)の資料と議事録
全国生活衛生営業指導センター 『生活衛生関係営業ハンドブック 2015年度』 平成28年3月
「各都道府県の公衆浴場入浴料金審議会」 の資料や議事録
| コラム的なもの | 00:20 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑