銭湯のサイトを運営しながら、
『銭湯大学』という銭湯をテーマに論文書いている学生をサポートする活動を7年ほど前からやっています。
その問い合わせの中で多いのが、「銭湯をこういうテーマで卒論書きたいのですが、文献・資料はありますか?」というものです。ですが、銭湯(公衆浴場)は学問としてはあまり研究が進んでいない分野で、専門の研究者も少ないのが現状です。
なので、銭湯(公衆浴場)を研究する、論文を書くにあたっての入門、基本的な文献や知識について、まとめました。
この記事が、学生の研究や卒業論文作成やの一助になることを、また銭湯に興味があったり好きで調べたりしている方達の役に立つことを、願っています。
2023年1月
第1章 「銭湯」とはなにか?第2章 銭湯は本当は減っていない?!多様化する公衆浴場第3章 銭湯・公衆浴場の参考文献紹介【この記事をSNSでシェアする】
第1章 「銭湯」とはなにか? まず参考文献の紹介する前に、『銭湯』について解説したいと思います。
銭湯は銭湯だろう。と思うかもしれませんが、実は『銭湯』は定義があいまいな言葉で、
人や場合によって、文献や記事によって、その指す対象が変わります。
銭湯、お風呂屋さん、公衆浴場、△△の湯、湯屋・・・様々な呼び方がありますね。
「銭湯」という言葉は日常的に使いますし、なんとなく下記の絵のようなイメージでしょうか?
レトロな建物の銭湯をイメージする人もいれば、大きなスーパー銭湯を想像する人もいるでしょう。
人によって「銭湯」の指す対象は様々です。住んでいる場所によっても違うと思います。
「ここまでが銭湯で、ここからが銭湯ではない。」というような全国統一の厳密な定義、基準がないのが実状です。
実際、銭湯についての本や銭湯で働いている人の中でも、このへんの線引きが微妙に違います。
Q.銭湯とはなにか? 銭湯とは何か?我が地元の市のHPの文章が、分かりやすくまとまっているので引用しますね。
簡単にいうと、身近な街のお風呂屋さん、普通は「銭湯」と呼ばれています。この銭湯を正式にいうと「公衆浴場」となります。
公衆浴場の定義については、公衆浴場法という法律の第1条により「温湯、潮湯または温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設をいう。」と規定されています。
さらに、この「公衆浴場」は、都道府県に届け出る営業の許可により、大きく分けて、「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」に区分されており、「銭湯」は「一般公衆浴場」に属しています。
さらに、さらに詳しくいうと、「一般公衆浴場」とは、「地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設で、物価統制令によって入浴料が決められる施設・・・」となっており、一般的な銭湯や公営の共同浴場などが該当します。
これをわかり易く言い換えると、「地域の皆さんに健康で快適な生活を送っていただくための施設で、その料金は法律によって定められている施設・・・」が街中で見かける銭湯ということになります。
ちなみに、「その他の公衆浴場」とは、物価統制令の適用がない施設で、サウナ風呂や健康ランド、最近はやりのスーパー銭湯などが該当します。
引用 朝霞市「公衆浴場(市内の銭湯)」
A.銭湯とは、「一般公衆浴場」である。 というのが答えであり、現在は最も一般的で全国的に通用する定義です。
「一般公衆浴場」は「普通公衆浴場」とも言います。
最新の数字では、全国に
3,120軒 の銭湯があります。(国の衛生行政報告例より。2022年3月現在)
銭湯(一般公衆浴場)は、物価統制令によって入浴料金が決まっています。これは都道府県ごとに金額が違い、現在全国で一番高いのは、東京都と神奈川県の大人500円、一番安いのが佐賀県の大人280円となっています。ちなみに、これは「上限価格」であって、「一律価格」でありません。要するに、これ以上上げるのはダメだけど、下げるのは実はOKなのです。これ勘違いしている人が結構多いです。また、サウナ料金等を別に取っている銭湯もあります。
さらに詳しい事を書くと、この「一般公衆浴場」は、県によって対象施設の範囲が微妙に違って、鹿児島県のように町の小さい銭湯から大型浴場・日帰り入浴やってるホテルまで含む範囲が非常に広い都道府県もあれば、東京のように対象範囲が狭い都道府県もあります。また、現在は一般公衆浴場の新規開業が実質的に不可能な県もあります。
銭湯の施設設備についての基準やルールは、各都道府県で条例で決まっており、それを読むと共通の部分もあれば、県によって違う部分もあり、全国一律ではありません。ここが少しややこしい。
銭湯(一般公衆浴場)はその都道府県ごとに、対象施設の範囲や数、取り巻く状況も、実はかなり違うのです。
もう一個の『銭湯』の定義は
A.銭湯とは、「公衆浴場組合に入っている浴場」である。 一昔前はこの考えがスタンダードで、この捉え方をしてる文章や人も多いです。
各都道府県には、公衆浴場業生活衛生同業組合(以下浴場組合)という銭湯の同業者団体があり、多くの銭湯はそこに加入して営業しています。ただ、加入は任意なので、加入せずに営業している銭湯も結構な数あります。また、ここ数十年で数が減少し、すでに浴場組合が解散している県も出てきているので、現在ではこの定義だと、漏れてしまう銭湯が多く存在します。
この浴場組合に入ってる銭湯の数は
1,865軒 になります。(全国浴場組合調べ。2022年4月現在)
前述した全国の一般公衆浴場の約2/3弱が、この浴場組合に加入してることになります。
東京都は、一般公衆浴場の浴場組合への加入率が全国でもトップクラスに高く、その約99%が加入しています。なので、東京都などの都市部では、「銭湯」=「一般公衆浴場」=「公衆浴場組合に入っている浴場」という定義も成立します。
銭湯は本当は減っていない?!多様化する公衆浴場 大正、昭和、平成、令和と時代は進み、人々の生活や住環境も変わり、
どの家に風呂があるのが当たり前になった現代、当然のことながら銭湯の役割や立ち位置も大きく変わりました。
銭湯も、
入浴という住民の日常生活において保健衛生上必要な施設から、
日々の生活のリフレッシュ、肉体的精神的な疲れを癒す、余暇を楽しむ施設へと、変わってきたと思います。
前述の「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」の境界線や役割の差は、年々なくなってきていると感じます。
「銭湯が減った」「銭湯文化がピンチ」と書かれた本や記事、文章をよく見ますが
これは半分正解で半分間違いです。銭湯(一般公衆浴場)の数のピークは、太平洋戦争前後に大きく2度ありました。
1度目は、昭和2年(1927)頃~昭和15年(1940)頃までの十数年間
2度目は、昭和31年(1956)頃~昭和46年(1971)頃までの十数年間
ともに、全国に20,000軒以上の銭湯が存在していました。
よく銭湯の本や記事に「銭湯のピークは、昭和43年(1968年)で全国18,000軒前後あった。」と書かれていますが、あれはあくまで前述した“浴場組合に入ってる浴場”の数のピークです。
一般公衆浴場(組合加入している浴場も)は、昭和40年代後半(1970年頃)から全国的に減り続けてきましたが、実は「一般公衆浴場」や「その他の公衆浴場」などを足した『公衆浴場の全体数』は、減っていませんでした。
昭和30年代までは、公衆浴場のそのほとんどが一般公衆浴場でした。それが時代が進むにつれ、健康ランド、サウナ、スーパー銭湯、岩盤浴など様々な温浴施設(その他の公衆浴場)が登場し増えます。同時に、一般公衆浴場の数や公衆浴場全体にしめる割合も年々減少していったのです。
公衆浴場の全体数は平成に入っても増え続け、平成18年(2006)頃には全国28,000軒を越えピークを迎えます。 この流れを単に銭湯の減少や銭湯文化の衰退と言ってしまう事には、違和感を感じます。
(ただ、近年は公衆浴場全体としてもやや減少傾向にある。)

大正・昭和・平成・令和にかけての全国的な公衆浴場の変化をみると、
入浴のみに特化した:まちの銭湯(一般公衆浴場)=
「狭義の銭湯」から、
様々な温浴を楽しむ:スーパー銭湯、日帰り温泉、サウナ、スポーツ施設なども含む
「広義の銭湯」へ。
人々の生活や住環境、ニーズ、時代の変化により、
『銭湯(公衆浴場)は多様化した。』と見るべきではないかと思います。
銭湯や公衆浴場の長い歴史の中で、「銭湯」は時代と技術の進歩、人々の入浴や衛生意識の移り変わりによって、常に進化と変化を繰り返してきました。ここ数十年で起きている変化も、銭湯の歴史の一つではないかと思います。
この「
銭湯・公衆浴場は多様化した」、また「
銭湯は都道府県ごとに施設も状況も大きく違う」という事実。この2点が銭湯に関する本や記事の中では欠けている事が多いです。今後は、こうした視点を持って、銭湯・公衆浴場を捉える必要が出てくると個人的には考えます。
第3章 銭湯・公衆浴場の文献紹介 それでは本題の銭湯・公衆浴場の研究において参考になる文献を紹介していきたいと思います。 買える値段であれば、書店や古書店、アマゾン、日本の古本屋などのサイトを使って買っても良いし、地元や大学の図書館、大きい県立図書館・資料館や国会図書館で探してみるのも良いと思います。とりあえず1冊読んでみて、その本に書いてある引用・参考文献の中で、自分の研究テーマに関係ありそうな文献、先行研究をさらに調べてみるという方法が有効だと思います。
内容や入手が難しい物もあるので、比較的読みやすいものに
☆がつけました。
☆がついている文献から読み始めてみるのもいいかもしれません。
まずは、銭湯研究において基本となる重要な文献を5つを紹介する。
〇基礎文献
①
中野栄三 『銭湯の歴史』 雄山閣 1970年「入浴史」「浴場史」「銭湯史」「入浴雑考」の各章。日本人の入浴の歴史、浴場形態の変遷、江戸の湯屋、明治大正時代までの銭湯の歴史、生活風俗などが取り上げられている。重要な一冊。
現在は『入浴と銭湯』 (雄山閣アーカイブス) として入手可能、内容は同じ。
②
公衆浴場史編纂委員会編 『公衆浴場史』 全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会 1972年浴場組合の記念事業として監修者武田勝蔵氏を中心にまとめられた本。銭湯や公衆浴場研究の基礎となる史料。
銭湯関連の書籍などに載っている銭湯の歴史や知識はこの本に由来するものが多い。
付録として、図書目緑と672年以来の公衆浴場史略年表がついている。
③
全国公衆浴場業環境衛生同業組合 『全浴連三十年史』 全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会 1990年発行された部数が少ないせいか、収蔵している図書館が少ないが、史料的価値は非常に高い。
内容は大きく分けて公衆浴場の歴史を江戸時代から昭和63年まで年表でたどる「全浴連のあゆみ」と、
北海道から沖縄まで各県の動きや入浴料金、軒数などの変遷が書かれている「各都道府県の浴場組合のあゆみ」。
昭和期の浴場組合の動き、公衆浴場法や入浴料金など、銭湯と行政との交渉の過程などが非常に詳しい。
ちなみに、この20年後に出た『全浴連五十年』は、史料的価値はやや薄い。
④
全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会 『全国浴場新聞』 1949~?年、1969~2023年現在銭湯の業界紙。現在も毎月発行され全国の銭湯に配布されている。
浴場組合の会議の内容や人事や入浴料金、コラム、歴史、広告など銭湯関連の記事が多数掲載。
それらをまとめた『全国浴場新聞縮小版』も刊行されている。
現在、
『全国浴場新聞 電子版』がネットで公開されていて、1969年から2019年までの全ての新聞、記事が誰でも読めて、なおかつ記事の単語検索機能もついているので、超便利!
※ちなみに、1969年以前の全国浴場新聞(全日本浴場新聞)はほぼ残っていないので、持っている方見つけた方は当方まで連絡ください~⑤
山田幸一監修 『いま、むかし・銭湯』 株式会社INAX 1988年 ☆INAXギャラリーにおける企画展「いま、むかし・銭湯」に合わせて刊行された本。
内容は、「わが国における入浴文化の変遷と浴場建築」「銭湯の建築史」「江戸の銭湯と風俗史」「銭湯経営者と新潟・北陸との関係」「銭湯の名建築」「唐破風」「ペンキ絵」など、その後の銭湯関連の本でよく取り上げられているトピックスがほとんどがここで書かれている。
健康ランドの元祖「船橋ヘルスセンター」についての記述や写真も貴重。写真豊富なので読みやすい。
〇ほかに、銭湯・公衆浴場に関する参考になる文献をいくつか
銭湯や公衆浴場について書かれた本や文献は、様々なジャンルで数百冊以上はありますが、
その中でも、特に卒業論文や研究の参考になるものをいくつか挙げてみます。
・京都市社会課 『京都市社会課叢書第13編 京都の湯屋』 1924年大正13年に京都市が行った市内の湯屋(銭湯)への大規模な実態調査の結果をまとめ分析したもの。
当時の湯屋の建物、設備、経営状態、従業員などかなり詳しい情報が載っている。また、京都の銭湯の歴史や浴場の衛生調査、寺院の古浴室設備、京都市公設浴場の概要なども書かれている。
この時代の銭湯に関する一次史料はとても貴重である。
【『日本近代都市社会調査資料集成4 京都市・府社会調査報告書Ⅰ 11 大正13年(1)』 近現代資料刊行会 2001年】にそのまま収録されているので、こちらで見ると良い。
・公衆浴場史編纂委員会 『公衆浴場史略年表稿本』 全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会 1969年「明治以前」「自明治元年 至昭和四十三年」の2冊がある。
全国の浴場組合よりの提供資料、東京の本部所蔵のものを「史料カード」を数千枚を採集、整理してまとめたもの。
前述の『公衆浴場史』にもこの年表の抜粋したものが収録されているが、本書の方が内容や記述がより詳しい。
・神保五弥 『浮世風呂 江戸の銭湯』 毎日新聞社 1977年江戸時代に書かれた文学作品の記述を中心に江戸の銭湯を考察した一冊。
伊勢与一から始まる江戸時代の銭湯の発達、当時の銭湯の構造や経営、客と銭湯で働く人、銭湯の一日、銭湯の四季などについて、書かれている。当時の銭湯を描いた絵も多く載っていて、興味深い。
・東京都公衆浴場商業協同組合 『30年のあゆみ』 東京都公衆浴場商業協同組合 1980年 公衆浴場組合の資料は、外部に公開されている事は少ないが貴重な史料が多い。
まとまった年史・記録は、東京のほかにも、北海道、札幌、旭川、埼玉、板橋、墨田、池袋、新宿、大阪、京都などのものが存在する。その他にも、一般利用者向けの銭湯マップや組合員向けに名簿を作っている事もある。
地元の図書館や国会図書館を探してみると良い。
・宮崎良美 「石川県南加賀地方出身者の業種特化と同郷団体の変容 -大阪府の公衆浴場業者を事例として-」 『人文地理 50巻 4号』 人文地理学会 1998年 ☆「東京や関西の銭湯経営者には北陸出身者が多い」といわれるが、この論文では特に大阪の銭湯と石川県南加賀地方出身との関係にスポットを当てている。なぜ、特定の地域の出身者が公衆浴場業に進出していったのか?銭湯の歴史や県人会・同郷団体、親族や友人などの「つて」、資金や物件、就職先の紹介の繋がりなどの多方面から考察していて、非常に読み応えある。
・東京都公衆浴場業環境衛生同業組合 『東京銭湯物語』 草隆社 2000年 ☆「東京の公衆浴場の歴史」「風呂屋の主人が語るあのころ」「銭湯写真館」「銭湯で元気になる」
コンパクトながら、非常によくまとまっていて読みやすい。
貴重な写真や銭湯に関する記述も多くある。
・白石太良 「生活文化の舞台としての公衆浴場の現状-神戸と明石における調査から-」
『御影史学研究会民俗学叢書16 民俗宗教の生成と変容』 岩田書院 2004年2002年にゼミの学生とともに神戸市と明石市の全ての銭湯に実際に入浴して調査を行い、まとめた論文。
公衆浴場の実態(概況、施設と設備、清掃の状況など)、入浴客の動向(利用頻度、家庭風呂の有無、入浴時間や方法など)、公衆浴場の問題点などが書かれている。
・星野剛 『湯屋番五十年 銭湯その世界』 草隆社 2006年 ☆墨田区のさくら湯のご主人が自らの修業時代を当時の銭湯模様、時代背景とともに描いた、昭和銭湯回顧録。
終戦直後の銭湯の状況とその仕事の内容や従業員の構成、他の銭湯の関係など非常に分かりやすく書かれている。
かつ一冊の本としてもとても面白い!
銭湯経営者が書いた本としては、新宿松の湯の笠原五夫氏の書籍もある。
・佐藤せり佳 「銭湯の行動学」
菅原和孝編 『フィールドワークへの挑戦-<実践>人類学入門』 世界思想社 2006年 ☆銭湯の女湯で起こる客同士のつながりコミュニティーを徹底した現地調査で調べあげた読み応えのある論文。
心温まるエピソードから、なぜ常連客による場所取りやトラブルが起こるのかもこれを読むと納得。
・柴田恵介 「銭湯にみる地域外出身者と地域社会の変遷」
『龍谷大学社会科学研究所叢書第76巻 京都の門前町と地域の自立』 晃洋書房 2007年 ☆行政や浴場組合に残っている記録や京都市下京区の銭湯へのインタビューをもとに、過去、最盛期、現在に至る京都の銭湯の歴史を見ていく。その中で、北陸を中心とした他地域出身者が、銭湯という場所を通して地域に受け入れられていく過程や銭湯での働き方や運営状況の変化、同業者間の繋がりなども丁寧に調べられている。また、比較対象として、京都タワー大浴場の記述もあり。
良くまとまっていて、いわゆる「銭湯の定説やイメージ」とは違う実態も書かれててとても興味深い。
・中山満美、辻原万規彦、細井昭憲、安浪夕佳 「地方都市における一般公衆浴場の変容に関する研究」
『日本建築学会技術報告集13巻26号』 2007年 ☆熊本市の銭湯(一般公衆浴場)の建物、経営、設備、客数など多方面からその変遷を考察している。
表や銭湯の実測図、写真なども入っていて分かりやすい。力作!
・木藤 伸一朗 「公衆浴場と法」 『立命館法学』 2008 年 5・6 号(321・322号)現在も残っている公衆浴場に対する「距離制限をともなう許可制」と「物価統制令に基づく料金規制」という問題について、法と行政、過去の裁判の判例、法的視点をもとに考察している。また、強力な規制が残っているのが公衆浴場について、現代の実情と合わなくなっている事、公衆浴場確保という観点から今後の課題が多い点などを指摘している。
・社団法人 日本銭湯文化協会編 『銭湯検定公式テキスト』 草隆社 2009年 ☆江戸時代から現代に至るまで、銭湯の歴史や文化、日本人の銭湯・入浴事情を幅広く解説。
銭湯の建築や雑学、データについても書かれている。浴場組合がやっている銭湯検定の公式テキストである。
2020年に改訂版出てます(1と2) 1では銭湯の「歴史」「建築」「雑学」 2では銭湯入浴医学や健康法が書かれている。
・川端美季 『近代日本の公衆浴場運動』 法政大学出版局 2016年江戸・明治・大正期の都市の公衆浴場、特に「公設浴場」に関する研究。
湯屋の法規則の変遷や欧米の公衆浴場運動、行政の社会事業としての公衆浴場、大阪、京都、東京での「公設浴場」が紹介され、労働者の生活環境改善、部落改善事業、大火や関東大震災との関連について書かれている。
・横浜開港資料館・横浜歴史博物館 『銭湯と横浜』 横浜市ふるさと歴史財団 2018年 ☆2018年に横浜で行われた「銭湯と横浜」展に合わせて作られた本。
横浜を中心に銭湯について多方面からの研究がされ、内容も非常に充実、写真も多く見やすく資料価値が高い。
後半の浴場史研究や参考文献の数々はとても参考になる。
銭湯経営者と北陸の関係についての研究は、今後も注目したい。
・石井萌美、川原晋 「生活文化資源としての銭湯継承とレクリエーションを含む新規需要獲得の取り組み – 親族以外が事業継承した銭湯に着目して -」 『日本観光研究学会機関誌 Vol.33』 2021年親族以外が事業承継した全国の銭湯の十数軒を1軒ずつ聞き取りや現地調査した力作。いま注目されている銭湯の事業継承の現状と課題について、詳しく分析されている。
銭湯大学で論文作成をお手伝いした学生の論文です。
・厚生労働省 『今日から実践! 収益力の向上に向けた取組みのヒント 公衆浴場業編』 厚生労働省 2019年
・新倉貴士監修 『消費者行動論で読み解く 銭湯の常連を増やす方法』 全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会 2023年ともに、銭湯経営者向けに作られたものだが、銭湯経営や利用者の実態・動向を知る資料としては有益。
また、ともにPDF版がネットから容易に入手できる(上記のタイトルをクリック)
前者は、業界動向、消費者動向、経営改善のヒント、取り組み事例などが紹介されている。
後者は、老若男女へのネットアンケートから、銭湯の利用状況、銭湯に求めること・設備、利用(または止めた)のきっかけなどが載っている。
・「東京都公衆浴場対策協議会」各都道府県の行政と公衆浴場事業者、学識経験者で行われている入浴料金などを決める会議。
他府県では「公衆浴場入浴料金審議会」などの名称で行われている事が多いです。入浴料金の他に、様々な銭湯に対する施策などが話し合われる。銭湯の軒数や経営状況などの資料が会議に使われて、議事録や会議資料がWEB公開されている県もある。その県の銭湯の実情の一部が知ることができる。
・厚生労働省『衛生行政報告例』「公衆浴場数」 全国や各都道府県、都市の銭湯の数やその変遷を知りたい時に役立ちます。
厚生労働省が毎年取りまとめ公表している「
衛生行政報告例(厚生労働省) 」により、公営及び私営別の公衆浴場数を種類別に調べることができます。昭和24年から現在までの各都道府県と全国の軒数のデータが閲覧可能。
公衆浴場:一般公衆浴場、個室付浴場、ヘルスセンター、サウナ風呂、スポーツ施設、その他
戦前は、「警察統計報告」に全国の公衆浴場数のデータが残っている。
・
厚生労働省 「浴場業の振興指針」 「浴場業の振興指針」とは、国(厚生労働省)が定めた法律に準ずる銭湯(公衆浴場)業界のガイドライン的なもの。中身については、5年に1回改定され、厚生労働省の会議で銭湯経営者代表も参加し内容を決めています。最新は2020年3月。
これを決める厚生労働省の
厚生科学審議会 (生活衛生適正化分科会)の資料や議事録も重要。
銭湯業界の現状や、抱えている課題や問題点にもしっかり触れているので、読むと勉強になる。
※国や県、各市区町村、行政の銭湯や公衆浴場に対する施策や補助、法律、条例、データなどを調べる場合、
その多くが「銭湯」ではなく「公衆浴場」という名称で書かれている事が多いです。
一般市民向けのホームページでは「銭湯」という名称が使われている事もありますが。
〇一般向けの銭湯に関する書籍 一般向けの銭湯本は、銭湯の建物や装飾、タイルなどに注目したものが多く、写真が豊富なのが特徴。
あくまで銭湯の紹介や魅力、面白さ、ノスタルジーなどを伝える本なので、正確な実態を捉えているとは言い難い記述もあったりしますが、銭湯に興味を持つきっかけとしては良い1冊といえます。
多数出版されている中で、おすすめのものを何冊かピックアップしました。
・町田忍 編著 『銭湯へ行こう』 TOTO出版 1992年・町田忍 『銭湯へ行こう・旅情編 10年1089軒行脚の記録 カラー版』 TOTO出版 1993年町田忍氏に関しては、現在にいたるまで多数の銭湯本を出版しているが、
最近は目新しい発見や追加の研究も乏しく、出版年が古い本の方が内容が充実してるように感じる。
なので、ここでは最初に出した上記の2冊がおすすめとしておきます。
この2冊がその後の銭湯本のある種のひな型ともいえる。
・塚田敏信 『いらっしゃい北の銭湯』 北海道新聞社 1998年著者は当時高校教諭で学生と銭湯の自主製作本なども作っていた方。
カラー写真豊富に、約40軒以上の北の銭湯をそれぞれ魅力的に紹介している。銭湯の建物や煙突、看板、のれん、番台、タイルなどの解説や写真も多数あり。巻末に当時の北海道の銭湯リストも収録されている。
・松本 康治 『関西のレトロ銭湯』 戎光祥出版 2009年関西のレトロ(激渋)銭湯を、建物や入浴風景を写真豊富に40軒ほど紹介している。
近年は、銭湯一軒ごとの紹介とともに、「銭湯と旅」というテーマで紀行文的なものも多く、文章もおもしろい。『レトロ銭湯へようこそ』『旅先銭湯』など、関西・西日本の銭湯の本を多数出版しているので、気になったものを手に取ってみると良い。
・林 宏樹 『京都極楽銭湯読本』 淡交社 2011年前作の『京都極楽銭湯』は京都の銭湯を一軒ずつ紹介した銭湯ガイドブック的物だったが、本書は京都の銭湯を、建物、設備、タイル、ドリンク、屋号、祭り、イベント、データなど多方面から読み解く一冊になっている。
写真やレイアウト等もきれいなのでとても読みやすい。
・大武千明 『ひつじの京都銭湯図鑑』 創元社 2016年京都のおススメ銭湯の17軒を外観、内観、間取り図や建物設備の特徴とともに紹介した一冊。
写真ではなく手書きカラーの間取り図やイラストがかわいく、コラムやミニ漫画も面白い。
著者の銭湯への愛情や思いが感じられる。
・今井 健太郎 『銭湯空間』 KADOKAWA 2020年現在、全国で多数の銭湯や温浴施設のリニューアルを手掛けている銭湯建築士・今井健太郎氏の本。
著者が手掛けた銭湯の写真や解説が多数。本の後半に載っている銭湯の歴史の年表がコンパクトで理解しやすい。
WEB上に、本に入らなかったタイルの話や2000年以降の銭湯について書かれた記事も上がっている。
・おしどり浴場組合 『銭湯 文化的大解剖! まちのお風呂屋さん探訪』 神戸新聞総合出版センター 2021年関西の銭湯紹介や、お風呂屋さんの一日に密着、インタビュー、銭湯の見方解説などがある。
複数の執筆者が書いた関係か、それぞれの記事にクオリティの差を感じる時もあるが、それまであまり注目されなかった電気風呂にスポットをあてた「電気風呂の世界」は必読!
まだまだ、発見されてない歴史や魅力、面白さ、可能性がたくさんある「銭湯」。
自分自身も「銭湯」のことについて、まだまだ知らない事、分からない事だらけです。
だからこそ、新しい切り口や視点での「銭湯」の論文や研究が出てくる事またそれを読む事を楽しみにしています。
この記事がそうした『新たな銭湯』の発見に繋がるとよいと思います♨もし、この記事や紹介している文献について質問のある方は、
『銭湯大学』の記事の方から、問い合わせてください。
【銭湯大学】 銭湯・公衆浴場研究入門・参考文献紹介